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 1.田舎移住ガイド (2006〜)                               http://inakalife.net/

『お金がなくても田舎暮らしを成功させる100カ条』
自ら田舎暮らしする田舎暮らしライターが説く、田舎暮らしの始め方

 著者は、福島県の都路で自身も田舎暮らしを営み、雑誌『田舎暮らしの本』のライターとして知られている。すでに何冊かの田舎暮らしのガイドブックを執筆しているが、この本は百年に一度と言われる大不況の下で、雇用環境など昨今の経済情勢の大きな変化を踏まえて執筆されている。とるものも取りあえず田舎に行けば何とかなる、とにかく都会を離れて田舎に行くしかないなどと、さしたる準備や心構えもなく、追い立てられるように田舎移住に踏み切ること対し、筆者は警鐘を鳴らしている。田舎暮らしに踏み切るからには入念な準備が必要という年来のスタンスは、この本でも貫かれている。

 書名に100カ条とあるが、内容は全5章立てで、各章が20カ条ずつの構成である。「第1章 田舎暮らしの資金不足を補うための二〇カ条」では、田舎移住にあたって初期投資をいかにして抑えるかという具体策が示されている。重点はもちろん住居の確保であるが、生産設備や求職、食費やマイカーの維持費の節約など多岐にわたる。「第2章 田舎へ飛び込むための二〇カ条」は、都会暮らしに漬かってきた人に向けたアドバイスが中心である。

 また、「第3章 田舎物件を賢く入手するための二〇カ条」は、そのものズバリの内容からなる章で、これまた的確なアドバイスがあげられている。特に昨今の情勢にあっては、“安かろう悪かろう”の物件をつかまされては泣くに泣けない。次いで、「第4章 建物や工事で失敗しないための二〇カ条」では、“必要なところはケチらず、不必要なところは節約する”という誰しもが抱いている心得を、具体的にどう“仕分ける”かというポイントが述べられている。特に、特に都会の住宅地ではユーザーが一顧だにしないであろう給排水設備の解説は見落としてはならないだろう。

 「第5章 健康的な田舎暮らしを実現するための二〇カ条」は、安全かつ快適で、健康的で経済的な田舎暮らしを実現するためのアドバイスである。田舎では自然から身を守るのは自分の心がけがまず第一であり、都会のように“のほほん”とはしていられない。また、意識して都会でのライフスタイルを転換しないと、本質的に田舎暮らしを始めた意味が失われるし、不健康かつ不経済である。

 全体を通読して強く思ったのは、お金があっても無くても、望ましいかたちで田舎に移住して、その場にあったスタイルで暮らせば、それが自ずとムダにお金をかけない快適な田舎暮らしになるということだ。

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『実践 田舎の探し方』
自治体のプログラムなどの情報、その活用例などを紹介した田舎探しガイドブック

 団塊の世代の定年に合わせて、田舎暮らしのガイドブックもかなりの数が出版された感があるが、「異文化ジャーナリスト」と称する著者が「田舎暮らし」に関係する官庁・諸団体、各自治体に取材してまとめた「田舎探し」のガイドブックが刊行された。従来型の田舎暮らしがハンドメイドの田舎暮らしとすれば、イージー・オーダー的な田舎暮らし、ちょいとつまみ食い的な田舎暮らしのガイドブックという印象を受けた。

 内容は全4章立てで、第1章「新しいライフスタイルを考える 田舎暮らし 基礎知識編」として、田舎暮らしのライフスタイルを、1.短期滞在型、2.往来型、3.長期滞在型、4.ほぼ定住型、5.研修・田舎支援型に分類して、それぞれの特徴を紹介する。官庁のデータや政策に取材しているだけあり、個々人のライフスタイルまでも、政策誘導的に旗振りするのかという不思議な感覚にとらわれた。

 第2章「新しいライフスタイルを楽しむために! 田舎暮らしの準備編」では、受け容れに積極的な自治体の短期間のプログラムを活用することで、進むも退くも自在というスタンスから始めることを勧め、そのプログラム例を紹介する。また、田舎暮らしの情報収集法を解説するとともに、田舎暮らしを思い立ったときに考慮に入れておくべきことや心構えの類を説く。もっとも従来の田舎暮らしガイドブックの域を出るようなことがらは特にはない。

 第3章「ひと足早くライフスタイルをチェンジ 田舎暮らし 体験事例編」では、お試し滞在プログラム、クラインガルデン、二地域居住、移住などの事例を、北は北海道から南は鹿児島まで14例を紹介する。これは、現実に自分のライフスタイルを求めて実践している人に取材しただけあって、さまざまな興味深い内容が散見する。おそらく本書で、一番興味深く読める章だと思う。

 第4章「全国153の自治体が実施するプログラム226 田舎暮らし プログラム編」は、「お試し田舎暮らしツアー」、「クラインガルデン(滞在型市民農園)」、「お試し滞在プログラム」、「空き家バンク」、各自治体の「田舎暮らし情報サイト」、「二地域居住・定住に関する窓口一覧」からなるデータ編である。読むというよりは調べ物に活用する類だ。

 「田舎暮らし」ビジネスや「田舎暮らし」推進行政もすっかり一般化して、他者のコーディネートしたサービスから選択して利用・消費するかのような、都会の消費生活の発想とさして変わりのない田舎暮らしが現れてきた感があるが、そのことに違和感を覚えないでもない。もっとも、受け容れたい自治体と自ら構築しようとするライフスタイルを実現するにふさわしい地域が合致すれば、それはこの上ないことではある。

 このような本は、前半をさらりと読み流して、第4章で必要なデータを得たら、それで十分。「書を捨て街を出よ!」とでもいったところだろうか。全288頁だが紙がやや厚めで、必要以上に厚みがあるように思う。価格も2,100円(税込)と安くはない。もっとすっきりとした装丁にして、1,500〜1,800円くらいに価格を抑えて欲しいところだ。

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『田舎暮らしに殺されない法』
自律と自立の必要を説き、安直な田舎暮らし礼讃のTV番組や書籍などへの盲従に警鐘を鳴らす

 長野県生まれで安曇野に長く暮らす作家が田舎暮らし志向の人に向けて書いた本。特にセカンドライフで田舎暮らしへの憧れを抱いている人向けのメッセージだ。田舎が何か夢のような生活の舞台であるかのような錯覚・思いこみを抱いて田舎暮らしを始めたら第二の人生を棒に振るという強烈なメッセージを発している。

 田舎移住を促進し、サポートする立場の自治体関係者や田舎物件を取り扱う不動産業界関係者などどは異なり、著者はそのような利害関係がない立場から田舎暮らしを紹介するというスタンスを明瞭にしている。おそらく前二者の立場に立てば、本書はすぐさま「禁書目録」に加えたくなるような1冊ではなかろうか。

 田舎暮らしには田舎暮らしなりのマイナス面があるのは当然のことであるが、それをあまり意に介さない人が多い。本書では、そのような伝統的な、また昨今の田舎の持つマイナス面を、近所づきあい、選挙、騒音、治安、医療などさまざまな事例を挙げて紹介している。

 いささか極論に過ぎる点もあるが、おおむね当を得た主旨となっていると思う。プラス面のみを羅列することも、マイナス面のみをあげつらうことも、共に事の本質をゆがめるという点では共通だ。「思いやり」を具体的なかたちにするとき、「優しさ」として現れることもあれば、「厳しさ」として現れる場合もある。評者は、本書は後者に立つものと理解される。巷間にあふれる田舎暮らし礼賛の情報がテーゼ(正)であるならば、おそらく著者は、アンチ・テーゼ(反)の立場からこの本を著したのであって、自らそれをアウフヘーベン(合)することなく、完全に個々の読者自身の問題として投げかける意図があるものと思う。

 そういう点では、何事にも(自分の生き方でさえも)他者に明快な答えを求めたがる、今日の異常なまでに依存性の強い社会の中にあっては、いささか刺激が強すぎないかという気もしないではないが、評者はこの本を読んだ程度で田舎暮らしへの夢やあこがれが砕け散る程度の人ならば、それはそれでよいと思うし、かえって幸せなことだと思う。

 この本は田舎暮らしがテーマではあるが、著者はそれを通して人間の自律と自立の必要性を訴えかけているものと評者は読んだ。すなわち都会か、田舎かという暮らしの「場」の問題で人の幸不幸が決定づけられるのではなく、自律心と自立心の有無が明暗を分けるという点に、評者はかなりの共感を覚える。

 評者が思うに、結局田舎暮らしやスローライフというのは、自分の生活を自分の価値観に照らして自分で構築しようとする生き方・ライフスタイルを、さらに生活の「場」を基準に分類してみた場合の一類型に過ぎない理解している。

 田舎暮らしへの志向を抱き始めた人が、田舎暮らしのすすめを内容とする他の良書を読んだ後にあわせて読むのに適した一冊だと思う。

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『田舎物件はこうして探す』
田舎物件仲介・リフォーム業で得られた事例・ノウハウを豊富に紹介

 著者は、大分県で田舎不動産の仲介業や古民家再生などのリフォーム等住宅建築業を営む会社を経営する。本書はこの会社で実施した「100人アンケート」から得た情報を随所で紹介している。どのような調査法・抽出法を使ったのかは定かではないが、、田舎暮らしを始めた人への直接調査だけに、本当に「十人十色」という言葉がしっくり来るほどに、豊富なケースが紹介されていて興味深い。

 内容は、まず第1章で、「団塊の世代を考える」として、この世代の現役時代や人生論、セカンドライフのあり方などを紹介する。第2章は「なぜか若者も田舎に向かう」として、年代別の田舎暮らしの動機を紹介し、起業・就農などの計画・事例を紹介する。その成功の秘訣は、「よい物件の確保」と説くが、仲介業者だから云々ということはさておき、目的を明確にして最適な物件を確保するということは決定的に大切だと思う。

 第3章は「田舎暮らしのすすめ」としてその魅力と効用を説き、第4章は「田舎暮らしの実際」として具体的な生活場面ごとにアドバイスを展開、第5章「田舎での暮らし方、ベスト16」として、アンケート結果から田舎に求める暮らし方を多い順に紹介する。この辺は至って常識的な内容だ。

 次いで、第6章「田舎暮らしに向かない人」については簡潔にして要を得ており、続く第7章「田舎物件はこうして探す」も、実践的で未経験者なら気付かないような観点が具体的に紹介されていて、大いに参考になるだろう。さらに、第8章は「究極の住まい」として、家付き物件のリフォームとの関連での見極め方が解説されており、まさに著者の本業の領分だけあってとても参考になった。また、田舎暮らしに推奨できる家や設備等も紹介されている。

 第9章では田舎物件と関係の深い「農地法」との関わり方を解説する。第10章では、売買契約や諸費用、リフォーム費用について簡潔に解説し、第11章では田舎物件を求めている人のよくある質問と回答をQ&A形式で紹介する。第13章・最終章は本書全体の結び的な内容である。

 校正が雑なところが若干目立つが、豊富な事例紹介に加えて、やはり田舎物件の仲介業・建築業を展開している視点からの内容が、本書のオリジナリティといえよう。コラムも14編ほど、要所に挿入されているが、その中の「嫌なお客には売りたくない」は、秀逸であった。

 田舎物件探しを始めてみようかと考える前後が「読みごろ」の1冊と思う。

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『山中湖<永住型>別荘生活』
定年後の別荘永住を考える人向けに書かれた山中湖別荘暮らしガイド

  著者は、定年2年前に退職後、プロのビデオカメラマンになり、八王子の自宅と山中湖の別荘を行き来する生活をしている。この本は、それ以来27年間の自身の生活経験などを中心に、定年後の別荘分譲地での生活を考えている人向けに書かれた山中湖の別荘生活ガイドである。山中湖の別荘地は富士急が開発した分譲別荘地であるが、その管理会社や別荘オーナーなどへの取材に基づく内容も含まれていて、近年の山中湖の別荘事情がかなりよくわかる。

 内容は、山梨県山中湖村の地域的・歴史的特性の紹介やその湖畔の分譲別荘地の説明である。また、その分譲別荘地内の生活環境などの様子が詳しく紹介されている。また、この地の別荘を入手する際の注意点やアドバイス、また実体験や取材を通じて得た生活上注意を払うべきことなどが解説されている。

 山中湖の別荘地は標高が高く夏は冷涼だが、冬の寒さはかなり厳しいらしい。また、冷涼とはいえ湿度が高いので、快適な別荘生活をするには、別荘の造り、水道の管理、暖房設備など、寒冷対策・降雪対策・湿気対策をきちんとしないと、さまざまなトラブルに見舞われるらしい。また、山中湖の四季の移ろいと別荘生活の歳時記の章もあり、かなりイメージが湧くことだろう。

 総じて、タイトル通りに山中湖の別荘ライフのための内容であって、リゾートの地域別や滞在頻度別などの違いを超えた別荘生活一般の解説本とまではなかなか言い切れない印象を受けた。しかし、山中湖の分譲別荘地やそこでの暮らしに関心の高い人や、首都圏在住で富士山の見える避暑別荘に関心のある人などには、大いに参考になることだろう。

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『田舎暮らしができる人 できない人』
博識と実践経験に基づき田舎暮らし・スローライフへの適性を的確に解説

 著者は、1983年に軽井沢に移住し、長野県に住んで田舎暮らしなどに関する著書を多数執筆するとともに、農園とワイナリーを経営している。

 本書では第1章で田舎暮らしのライフスタイルの魅力が語られている。第2章では2007年問題とも言われる団塊世代のリタイアという大きな社会的変動の中で高まってきた田舎暮らし志向の何たるかを解きほぐし、第3章ではその移住先となる田舎社会の今日的状況を紹介している。また、第4章では「スローライフは忙しい」と題して、“ゆったり・のんびり”などと誤解されがちな田舎暮らしの実際を紹介する。「田舎暮らし」・「スローライフ」・「ロハス」とは何なのか、どういうことなのかが、堅苦しくなく、かつ的確に説明されている。章中の「田舎暮らしは男のロマンか」・「奥さんはなぜ田舎暮らしに反対するのか」の節は、ぜひ一読をすすめたい内容である。

 第5章は田舎暮らしの生活・生業について、産業革命をキーワードに交換経済と貨幣経済、家内工業と工場制、賃労働などの経済(史)的観点から解説している。経済学的な視点にきちんと立脚しながら、それでいて「頭でっかち」ではなく、実生活に密着したわかりやすい説得的な内容となっている。

 また、第6章は田舎暮らしの性格的な適性を平易かつ具体的に解説し、第7章では「田舎暮らしの心配ごと」として、田舎暮らしを躊躇させる「近所づきあい」・「医療」・「生計」などの問題に関する著者の体験・知見に基づく考え方が披瀝されている。最後に第8章では「農業をやりたい人へ」と題し、著者の実体験に基づくアドバイスやそこから体得した思索がつづられている。

 総じて、「田舎暮らし」の実体験に根ざした、それでいて主観的・自己満足的ではない論旨が心地よい。また、平易な文章でありながら、国際的視点や社会学的・経済学的素養の裏付けを十分に窺わせる。田舎暮らしを決断し、その第一歩を踏み出さんとしている人向けの具体的な方法を解説した本ではなく、その決断の前段階にある人に最適な本だと思う。

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『リタイア後は田舎で暮らそう』
著者の豊富な知見から理想的なリタイア田舎暮らしのスタイルを提言

 著者は、Webサイト「ふるさと情報館」や『月刊 田舎暮らしネットワーク』を運営・発行する会社の代表取締役。1990年以来田舎物件を仲介してきた得た田舎暮らしの知見をもとに、リタイア後の田舎暮らしについて、さまざまなケースを紹介し、アドバイスした本である。

 全体は9章立てで、前半は田舎に居を構えるまでの事例が紹介されている。第1章「人生 新たな出発」では、田舎暮らしに踏み切った人の前半生を概観し、なぜ田舎暮らしに踏み切った経緯を紹介する。「第2章 家族の同意」では、夫は田舎志向だが、妻は都会志向など、夫婦間でライフスタイルの志向が一致しない場合の、さまざまな田舎暮らしスタイルのあり方を紹介する。「第3章 田舎の選び方」では、事例を紹介しながら、エリア探し・物件探しの要諦をアドバイスする。「第4章 田舎暮らしの住まい」は、ログハウスのセルフビルド、古民家再生など、田舎暮らしにふさわしい住まいづくりを紹介する。

 後半は、田舎での生活や生業、地域との交流などの事例紹介と提言である。まず、「第5章 田舎暮らしの日々」では、実際の田舎暮らしの事例紹介である。事例ごとに歳時記風に紹介されていて、イメージが湧きやすい。「第6章 田舎での仕事」では、これまでできなかった自己実現をはかる、都会で培ってきた自分のスキルやネットワークを活用して地域づくりに後見するなど、リタイア田舎暮らしならではの起業事例を紹介している。「第7章 地域のかかわり」では、一般的なあいさつ・自治会などの近所づきあいなどの生活領域にとどまらず、趣味・特技などを活かした仕事・ボランティア活動など一歩深化した地域との関わり方をしている人の事例を紹介し、そのような関わり方をすすめている。「第8章 シングル女性の田舎暮らし」は、都市でのシングル世帯の増加現象を踏まえて、単身で田舎に移住する事例を紹介する。

 「最終章 世界の田舎暮らし事情」では、イギリス・フランス・フィンランド・ロシア・アメリカ・韓国の事例を紹介し、「田舎から都会へ」から「都会から田舎へ」の転換の必然性・必要性を説いて結びとしている。

 全体的に事例紹介をしながら提言・アドバイスを添える体裁をとっており、押しつけがましくないのがよい。また、ボリュームや構成もシンプルで読みやすいものとなっており、価格的にも手頃な1冊だと思う。

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『月10万円で豊かに生きる田舎暮らし』
田舎の経済や田舎暮らしの生計に関する記事を多く執筆している著者の書き下ろし文庫本

 田舎暮らしについて、特に経済・生計の観点から雑誌『田舎暮らしの本』などに記事を執筆してきた著者による、田舎暮らしの生計をメイン・テーマとする田舎暮らしガイドである。内容はその観点でコンパクトにまとめられているが、要するに「消費」が生活の中心をなす都市生活に対して、田舎は「生産」中心の場であり、都会の家計は概して高収入・高支出なのに対して、田舎は貨幣経済に依存する比率が低く、低所得であっても支出が少なくて済むので、それなりに豊かに暮らしていけるというのが主旨のようだ。

 ただ、その内容たるやよしであるが、このことを説明せんがために、わざわざ書名に「月10万円」を謳い、ことさらに「月10万円」を随所に書く必要があるのかというのが、評者の率直な所感である。以前にちょっと話題になったテレビ番組(出版化もされているが)にあやかって、書籍の売り込み戦略上、このようにしているだけかもしれない。しかし、世の田舎暮らし志向を持つ人々の多数は、「月10万円」で生活したいがために田舎を目指すのだろうか。また、「月10万円」で生計を維持したいがために田舎で生業を求めるのだろうか。

 まったく評者の主観的な見解であるが、「月10万円」を前面に押し出す田舎暮らし関連「情報」は、田舎で生計を立てること、生活の場を田舎に求めること、すなわち田舎で自己実現を図ろうとする人の志を本末転倒的に陳腐化させているような気がしてならない。今の世の中、現金収入なしには暮らせないのは当然だが、現金(10万円)を稼ぐために田舎暮らしを始めるわけではない。

 さて、内容であるが、第1章は「田舎暮らしが楽しい理由」と題して、収入が多くなくても経済的・心理的に「豊か」に暮らせるのかを解説している。第2章では「田舎の格安住宅事情」として田舎不動産の売買・賃貸事情を説明する。また、第3章「とれたてを味わう食生活」では、生活・家計の中で高い比重を占める食生活、特に自家用に食材を「生産」することを取り入れる生活について解説する。

 第4章は、「田舎暮らしを実現した人々」として、田舎に移住した「人」を切り口に、5例ほどケースを紹介することで、読者の田舎暮らしのイメージにふくらみをもたせる試みとなっており、そのルポは十分に成功していると感じた。さらに、終章になる第5章では、即物的に「田舎で月10万円を稼ぐ方法」と題して、田舎での求職や起業などのヒントやアドバイスが示されている。

 書名には強烈な違和感を抱く評者ではあるが、内容は平易で読みやすく、文庫本というハンディさや手ごろな価格も手伝って、家計・生計の立て方をテーマにすえたコンパクトな田舎暮らしガイドブックとして、特に経済的な条件について興味関心のある方は、一読しておいてよい本だと思った。

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『定年からはじめる田舎暮らし完全ガイド』
鹿島エリアで定年田舎暮らしを提案するオーシャンロッジ(株)をアピール

 この本は、大都市近郊のいわゆる「トカイナカ」での定年後田舎暮らしをすすめている。書名を見て、定年後田舎暮らしを総合的に解説した本かと思ったが、読者は首都圏在住で定年田舎暮らしを考えている人が主対象のようである。

 エリアの比較については、軽井沢・那須エリアなどは寒い、また伊豆・湘南エリアも含めて昔ながらの人気エリアは、平坦地が少ないから大変、シーズンには渋滞する、喧騒で落ち着かない。海に近すぎると塩害がある。これに比べて茨城・千葉は温暖で平坦であるが、千葉は開発が進んでいて地価が高いなど、首都圏近郊のエリアの問題点をたたみかけるように指摘して、よほどの山好き・海好き、体力に自信がある人でない限りは、鹿島エリアへの移住がよいとすすめている。

 各エリアには、それぞれに一長一短があって、自分たちはその何を取捨選択するかというのが、エリア探しの要諦だと思う。鹿島エリアにしても、現地に行ったことがないので断定的なコメントはできないが、本書で指摘されている長所の他に、やはり何らかの短所があって然るべきだろう。

 いずれにせよ、「完全ガイド」というには、少しく展開が性急に過ぎる違和感を覚えたので、読むのをちょっと中断してネットで調べてみたら、オーシャンロッジ(株)は本書巻末のプロフィールに社名はないが、監修者が会長をつとめる企業の関連会社であることがわかり、納得がいった。「トカイナカ・鹿島エリア」の魅力や、そこでの田舎暮らしを不動産販売のみならず、全面的にサポートするという事業内容を大々的にアピールするのであれば、それとわかるような書名にしてもらえると、読者の本選びにはとても助かる。

 この本は、特に首都圏在住の定年田舎暮らし志向で、「鹿島エリア」に強い関心がある人が一度読んでみたらよいと思う。なお、この企業のサイトから資料請求する際に、「本希望」と申し込めば、本書をプレゼントしてくれるとのことだ。

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『団塊世代の田舎暮らし』
セカンド・ライフ・スタイルとしての田舎暮らしのすすめ

 著者は、福岡市から長崎の海辺に移住し、田舎暮らしのプランナーとしてSOHOのスタイルで仕事をしている。「All About」の「田舎暮らし」のオフィシャル・ガイドでもある。この本は、団塊世代にターゲットを絞り、セカンドライフ・スタイルとしての田舎暮らしをすすめる内容となっている。

 第1章は、「準備編」として、家族内の話し合いや情報収集、ライフスタイルのデザインなどにふれる。第2章は、「体験編」として、田舎暮らしに踏み切る前段階での、プランの実現に向けたアクションやその起こし方などを解説する。第3章は、「計画編」として、住居の確保、求職、家計などのあり方をアドバイスしている。第4章は、「実践編」として、近所づきあいやライフスタイルなどの心得を解説している。終章になる第5章は、「目標編」として、マルチハビテーション(複数居住)、興味のある分野での地域コミュニティづくりへの参加、パソコン・インターネットの活用、田舎暮らしならではの知的活動など、セカンド・ライフをアクティブで充実したものにするための提案が示されている。また、最後の節では、いつかは来る「第3の人生」にも言及している。

 各節の構成は、そのテーマに関する解説やアドバイスを書いた上で「パーソナル・ケース」として、著者の実体験や伝聞によるエビソードが綴られている。この書き分けが小気味よいメリハリを生んでおり、それぞれの内容も要領を得た、ためになる、楽しいものとなっている。

 また、この本の魅力は、著者自身が田舎暮らしの実践者で、その方面の専門家であるということに支えられているが、加えて特筆したいのは、著者自身が団塊の世代であり、時代感覚を共有してきた者として、同世代の読者に同じ目線に立って呼びかけるかのように様々な提案をしている点である。田舎暮らしに憧れる団塊の世代に、ぜび一読をすすめたい本である。


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『夫婦いっしょに田舎暮らしを実現する本』
田舎移住・田舎暮らしを夫婦で実現したい人のための参考書

 「田舎暮らし」をしたいと言っても、配偶者がいれば自分の一存で揃って田舎移住というわけにはいかない。夫婦で志向が合致すれば幸いなことだが、そうではない夫婦の方が多い。この本は、そのような田舎暮らし志向の人が伴侶とどのようにコミュニケーションを重ねて田舎暮らしを実現させたらよいかということをまとめたものである。内容は、移住者へのこのテーマでの直接インタビュー、「田舎暮らしライター」として著者が豊富な取材情報から蓄積してきた実例、不動産業者の立場で知り得た情報などを素材としている。

 この著者による本は、「田舎暮らし」・「田舎移住」について、手放しでユートビアであるかのようなイメージやムード・幻想を振りまかない堅実な内容であり、この本でも本文中で夫婦は十人十色、特効薬はないという趣旨のことを断りつつ、夫婦共に田舎移住するにあたってのさまざまな課題や参考になる話の進め方などを解説している。

 第1章では、「脱都会」・「田舎移住」をためらわせるさまざまな要因を解説している。第2章は、ノウハウ編で夫婦で円満移住するための方策を紹介する。第3章は、夫婦で田舎移住を実現したり、充実した田舎暮らしを送るために役立つ考え方、移住や生活の障害となる事柄への対応などが解説されている。さらに、終章の第4章は、どうしても田舎移住が実現できない場合、その折り合いの付け方として出てくる「都会と田舎の二重生活」について、その課題や、さまざまな二重生活スタイルのあり方などが解説されている。

 著者も指摘するように、田舎移住・田舎暮らしの計画・実行にまつわる問題は、そのままひとりの人間、さらには夫婦の人生のあり方の問題である。結局、田舎暮らしを思い立つと否とを問わず、夫婦の生活の将来を真剣に考える営みは、良きにつけ、悪しきにつけ、これまでどのような夫婦関係を築き上げてきたがそのまま問われる問題だと言えそうだ。

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『失敗しない田舎暮らし入門』(文庫版)
田舎暮らしの「バイブル」とも言うべき入門書の文庫化

 改訂を重ねて第3版(2004年4月)まで刊行されている、『失敗しない田舎暮らし入門−土地や家の取得法から土いじりの楽しみ方まで−』が、今回文庫本になって刊行された。第3版を底本としているが、文庫化するにあたって写真や図版がかなり省略されている。

 内容は、最近の田舎暮らしの潮流を解説した序章に始まり、田舎とはどのような生活の場かという解説、田舎物件の探し方、敷地の造成や家屋の建築と給排水設備などのプランニング、田舎暮らしの楽しみ方などの4章立てになっている。今回、改めて文庫版を読んだが、やはり何回読んでも、本格的に田舎暮らしを検討しようと思ったら絶対に読んでおくべき1冊であると感じられた。

 田舎暮らしに関する20年にも及ぶ豊富な取材経験と著者自身の田舎暮らし体験に裏打ちされた田舎暮らし入門の決定版が、1,000円札を出しておつりが来る金額で、ハンディな一冊になったことの意義は大きい。通勤電車の中でポケットから取り出し、じっくりと読みたい本である。

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『田舎で暮らす!』
はじめの1冊にしたい、豊富な田舎取材に裏付けされた「田舎暮らし概論」

 この本は、長く田舎の取材を続け、森林や里山などに関して積極的な提言をしているフリージャーナリストによる田舎暮らしの入門書である。田舎移住のためのノウハウを詳論した入門書とは異なり、いわば「田舎暮らし概論」ともいうべき性格の本である。

 田舎の実情、移住先の探し方、田舎での就業・起業をはじめとする田舎暮らしによる夢の実現例、地域での交際、子どもの教育、田舎暮らしに多いさまざまな事故の危険性など、多岐にわたって解りやすく解説されている。特に、その地元の人々は、田舎への移住者やその行いをどういう風に感じ、捉えているかという点の紹介が豊富なのは、田舎での取材とそれに付随して耳目に触れた広範な情報を持つ著者ならではといえよう。また、プライバシーに配慮して人名は言うに及ばず地名等も伏せているが、いざ移住してからの失敗例などが随所に盛り込まれているのも特色である。

 さまざまな田舎暮らしのスタイルに応じた言及も見られ、読みやすくコンパクトにまとまった「田舎暮らし概論」であり、かつ新書版という手軽さもあるので、田舎暮らしを考えたらまず最初に手にとって読んでみるとよい1冊だと思う。 

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『農村をめざす人々 ライフスタイルの転換と田舎暮らし
時代や地域特性でみた田舎移住者のヒューマン・ドキュメント

 この本は、時代や地域によって異なる田舎移住者たちの生い立ち、信条や夢、移住の動機とその過程、現在の生業やライフスタイルの聴き取り調査を行い、それをリアルに簡潔に紹介しようと試みた本である。いわゆる田舎移住ガイド本とは異なり、調査相手の話す内容を調査のやりとりや調査員の意見を含めて記述するヒューマン・ドキュメントという手法をとった田舎移住者の社会調査レポートである。調査フィールドは、北海道の新得と富良野、山形県の高畠、京都府の美山の3カ所で、新規就農や農的生活、住環境志向の田舎暮らしの実践者を紹介している。

 このように、田舎移住を社会学の手法で分析した本であるが、学術書的な堅苦しさは少なく、むしろ田舎暮らしの実例が全部で20数例にわたって簡潔にして要を得たかたちで紹介されている。田舎移住の時代的特性や地域的特性をくっきりと浮かび上がらせており、とても読みやすく感じられた。価格も手ごろでボリュームも100頁強と薄い。調査フィールドが田舎移住者にとっての人気スポットだけに、同地に興味のある人にはきっと参考となることだろう。

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